2024年9月中旬、東京から青森へと車を走らせ、2泊4日のロードトリップに出かけました。今回の旅では、美しい自然と美味しい食べ物を堪能する中、太宰作品で描かれた風景を実際に訪れ、太宰治の生きた時代や感…
【青森・五所川原】太宰治ゆかりの地④「津軽鉄道・太宰列車(金木駅↔五所川原駅)」に乗車
目次
津軽鉄道「金木駅」へGo!
東京から青森へ2泊4日のロードトリップ最終日は、津軽鉄道の「太宰列車」に乗車し、金木駅を出発し五所川原駅で折り返して戻ってくるというショートトリップ!はじめは奥入瀬渓流周辺を観光する予定だったのですが、「太宰治 疎開の家」で偶然目にした太宰列車の案内を見て急遽旅程を変更しました☺︎
津軽鉄道は、旅客と貨物を扱う鉄道事業として1930年に開業(五所川原〜金木間からスタート)したという、青森県・津軽五所川原と津軽中里を結ぶ全長約21kmの私鉄。12駅中、金木駅は津軽五所川原駅から数えて6駅目の駅になります。
車は、金木駅前の専用駐車場(金木駅と交流プラザの利用者のみ)に停めることができました。
金木駅発車時刻表と旅客運賃
最初イベント列車「太宰列車」という案内を見たときは、往復のパックツアーなのだと思っていたのですが、普通に乗車券を購入して乗車できるとのこと。
乗車料金は、金木から津軽五所川原駅までは片道560円で、往復切符1120円。片道約12kmの距離にしてはけっこう割高だなとこのときは感じたのですが…のちほど知ることとなった津軽鉄道の厳しい経営状態と存続を考えれば、じゅうぶん妥当だと思えます。
金木駅ホームと駅名標
金木駅のホームは哀愁が漂っています。太宰治の筆跡を用いたという「金木」の駅名標も味わい深いです。
走れメロス号入線
汽笛を鳴らし「走れメロス号」が金木駅に入線。素朴な風景が絵になります。
遠くの山並みを背景に、木製電柱に、オレンジ色の車体に緑色のラインが入ったワンマン列車に…と気分も高揚〜撮り鉄さんたちの気持ちがちょっとわかる気がします☺︎
太宰列車入線
次いで五所川原方面からは「太宰列車」入線!金木駅は津軽鉄道線の中で唯一列車交換可能な駅なのだそうで、走れメロス号と並ぶ貴重な写真をとることができました。
津軽鉄道のイベント列車
今回乗車した「太宰列車」は、鈴虫列車の運行期間と重なっていたので、車内や待合所には鈴虫が入った虫かごが置かれ、鈴虫の鳴き声を聞くことができました。津軽鉄道の主なイベント列車は以下のとおりです。
【ストーブ列車】:実施期間:12月1日 – 3月31日
【芦野公園さくらまつり】実施期間:4月29日 – 5月5日
【太宰列車】実施期間:6月 – 9月頃
【風鈴列車】実施期間:7月1日 – 8月31日
【鈴虫列車】実施期間:9月1日 – 10月中旬
「太宰列車」の旅にいざ出発!
金木駅から13時56分発五所川原駅行きの「太宰列車」に乗車!発進も走行もゆっくりです。
乗車券は久方ぶりに見る硬券!駅員さんがパチンと切符に切り込みを入れてくれるやつです。帰りの改札で持ち帰ることができるか聞いたらOKとのことで嬉しい〜良い思い出になります♪
「太宰列車2024」の車内
乗車する前までは席に座れなくて立ちっぱなしだったらどうしようと少し心配していたのですが…えっ。…平日だから?…車内は予想外のガラガラです…。
車内の中吊りには、津軽半島観光アテンダントが読む太宰治二つの帰郷「帰去来」と「故郷」と書かれた案内と、「太宰列車二〇二四」と大きな文字で書かれたポスター。窓際のミニテーブルには青森特産のりんごが飾ってあったりするのですが…、ちょっと切ない気持ちになりました…。
「嘉瀬駅」の慎吾列車
嘉瀬駅には、1997年に香取慎吾さんが地元の小学生たちと一緒に絵を描いたという「慎吾列車」が展示されていました。ちょうど電車に絵を描いているシーンをテレビで偶然見たのを思い出しましたが、これが津軽鉄道の列車だったということをここで初めて知りました。
2000年に運行を終了して金木駅で展示した後、こちらの嘉瀬駅に展示されるようになり、20年目の節目となった2017年に再び香取慎吾さんと元のメンバーたちと一緒に車両の絵を塗り替えたそうです。それから最早7年が経ち再び劣化しはじめている様ですが…、錆びゆく列車の哀愁も悪くありません。いい感じです。
「五農校前駅」の美しい田園風景
あいにくの天気で岩木山は少ししか見えませんでしたが、稲穂が綺麗な田園風景が素敵です。車窓から見える景色が次々変わってゆくのが楽しい♪ 津軽半島観光のアテンダントさんが、車窓からの景色についてガイドもしてくれました。
アテンダントさんによる朗読
往路半ばでアテンダントさんによる「帰去来」の朗読が始まりました。津軽の生家(斜陽館)に10年ぶりに帰省した太宰治のエピソードです。ガタンゴトンと揺れながらゆっくり走る太宰列車で聴く帰去来は、まったりとした幸せなひとときでした。
帰去来と故郷の文章ファイルが席や壁に用意されているので、アテンダントさんが乗っていない時間帯にも黙読できるようになっています。
「津軽五所川原駅」に到着
津軽五所川原駅には時間通り14時22分に到着!金木駅から26分の乗車時間でした。太宰列車の折り返しは14時40分発津軽中里駅行きということで10分少々駅構内から改札を出てみることに♪
津軽五所川原駅の待合所ほか
津軽五所川原駅改札前には、茶色と青の座布団が交互に敷かれたベンチやストーブが設置された待合室があり、レトロな趣がいい感じです。津軽五所川原駅を出るとすぐ左手にJR五所川原駅がありました。
駅前の「でる・そーれ」というコミュニティカフェに入ってみると、欲しかった桑茶が売っていたので即買い♪ 改札の待合室にもいろいろなグッズを販売する売店がありました。
津軽五所川原駅の待合室
こちらはホームの待合室。中にはいってみると鈴虫ケースが並べられ鈴虫の大合唱!まだTシャツですけどもう秋なんですね。そしてこちらのベンチにも座布団が…それを見るだけでほっこりあったかい気持ちになりました。
木造の有蓋貨車
津軽五所川原駅のホームに木造有蓋貨車(1929年製)が留置され、側面に太宰治 小説「津軽」の一文が掲げられています。
「金木の町長が東京からの帰りに上野で芦野公園の切符を求め、そんな駅は無いと言はれ憤然として、津軽鉄道の芦野公園を知らんかと言ひ、駅員に三十分も調べさせ、とうとう芦野公園の切符をせしめたといふ昔の逸事を思ひ出し、窓から首を出してその小さい駅を見ると、いましも久留米絣の着物に同じ布地のモンペをはいた若い娘さんが、大きい風呂敷包みを二つ両手にさげて切符を口に咥へたまま改札口に走つて来て、眼を軽くつぶつて改札の美少年の駅員に顔をそつと差し出し、美少年も心得て、その真白い歯列の間にはさまれてある赤い切符に、まるで熟練の歯科医が前歯を抜くやうな手つきで、器用にぱちんと鋏を入れた。少女も美少年も、ちつとも笑はぬ。当り前の事のやうに平然としてゐる。少女が汽車に乗つたとたんに、ごとんと発車だ。まるで、機関手がその娘さんの乗るのを待つてゐたやうに思はれた。こんなのどかな駅は、全国にもあまり類例が無いに違ひない。金木町長は、こんどまた上野駅で、もつと大声で、芦野公園と叫んでもいいと思つた。(太宰治 小説「津軽」より)」
津軽鉄道の危機を知る
偶然に太宰列車の存在を知り是が非でも乗ってみたいと今回初めて津軽鉄道を利用し、この素晴らしい体験ができたわけですが、イベント列車だというのにその乗客の少なさに違和感を覚え後日調べてみると、津軽鉄道が廃止の危機という切実な現状を知りショックを受けました。
津軽鉄道のピーク時(1974年頃)は、旅客約256万人を輸送し、貨物は国鉄五所川原駅を介して材木などが全国に輸送されていたそうですが、その後は利用者・貨物共に減少の一途をたどり1980年に赤字転落、1984年に国鉄が五所川原駅の貨物取扱廃止に伴い津軽鉄道も貨物事業から撤退するなど、津軽鉄道廃止の危機に直面することに…。
1990年に存続に向けて津軽鉄道活性化の協議が本格化し、ストーブ列車などのイベント列車が運行されるようになり、一時は利用者の増加につながったものの2014年から再び減少に転じ、現在も厳しい経営状況が続いているとのこと。旅客減少の主な原因は、利用者の半分以上を占めていた高校生の数が少子化にともない減少したこと、また高校の統廃合に伴うスクールバス利用やマイカー送迎が増えたことなどが、鉄道利用者の減少に拍車をかけたのだそう。
現在は、自治体をはじめ地域住民や企業のサポートによりレールオーナー募集やネーミングライツ導入など、様々な集客活動を展開されているようです。
津軽に来たらまた是非この素晴らしい景色と共に味わえるレトロ列車に乗りたい!!ゆっくり進む列車の中でリラックスして朗読を聴くことができる太宰列車も素敵でしたし、満開の桜トンネルやストーブ列車もきっと素晴らしい体験となるのでしょう✨️
多くのローカル線が廃線の危機に面している昨今ですが、津軽鉄道も何とか画期的な良い策で持ち直し、未来に存続することを願うばかりです。