目次
箱根・宮ノ下に佇む「富士屋ホテル」へGO!
今回は女2人の電車旅。初日はロマンスカーに乗って箱根湯本の温泉宿でゆったりと過ごし、翌日の午後は友人の提案で、箱根・宮ノ下に佇む「富士屋ホテル」を訪ねました。箱根湯本駅からは、強羅行きの箱根登山電車に乗車。スイッチバックを繰り返しながら、ゆっくりと山を上っていく電車に揺られること約25分、箱根の山々に抱かれた宮ノ下駅に到着です。
ノスタルジックな雰囲気漂う「宮ノ下駅」
駅前の坂道には、箱根の山並みを背景に、木の温もりを感じる宮ノ下食堂「森メシ」と「ナラヤカフェ」が並ぶ穏やかでノスタルジックな風景が広がっています。ここから国道1号線へと続く坂道を下り、左へ曲がって200mほど進むと、歴史ある「富士屋ホテル」が姿を現します。
富士屋ホテルに到着!
宮ノ下駅から歩くこと約7分で富士屋ホテルに到着。階段を上り地下1階のメインエントランス前で写真を撮っていると、駐車場にいたドアマンが「お写真をお撮りしましょうか?」と優しく声をかけてくれました。花御殿や本館の建物を背景に、手慣れた案内で立ち位置を変えながらベストショットを撮影してくださり、その丁寧でさりげない心配りに名門ホテルならではの温かいおもてなしを実感。これから始まるひとときへの期待が静かに膨らんでいく、とても心地よい幕開けとなりました。
富士屋ホテル案内マップ
こちらは館内にある懐かしい色調の富士屋ホテル案内図。ホテルの全景を鳥瞰図で描かれており、本館を中心に、花御殿、西洋館、食堂棟、フォレストウィング、カスケードウィングなど、歴史的な建築群が山の斜面に沿って配置されている様子がよくわかります。
本館1階のフロント・ロビー
メインエントランスから象徴的な朱塗りの階段を上ると、和洋折衷の美しい空間が迎えてくれました。改修時に、ロビー周辺やラウンジも昭和以前の姿に復元されたようです。緻密な彫刻が施されたフロントに、重厚な木の温もりに満ちたロビー、フランス製タイルに描かれた鶴亀の意匠など、しばしゆっくりと観覧させていただきました。
ロビー(マジックルーム)
かつての社交場「マジックルーム」には、仕切りごとに異なる意匠のソファが並び、往時の優雅な時間を静かに語りかけてくるようです。
バー・ヴィクトリアと歴史を語る空間
食堂棟の地下1階には、ホテルショップやバー、バンケットホールのほか、大人の隠れ家のような「バー・ヴィクトリア」(17時から営業)があります。神社の社殿を思わせる屋根が設えられたバーカウンターは、まさに富士屋ホテルらしい和洋折衷の極み。隣接するレストルームもまた、往時の趣を伝える美しいタイル装飾が足元を彩り、細部まで格式の高さを感じさせます。
レトロな市松模様の床が続く廊下には、色鮮やかな浮世絵のカレンダーやメインダイニングの記録など、魅力的な資料が展示されていました。この場所が紡いできた140年余の物語に思いを馳せます…。
本館と花御殿を繋ぐ「ルー・ド・ラ・ペ」
市松模様の床が続く地下通路「ルー・ド・ラ・ペ」を抜けて花御殿へ。こちらのギャラリーには、富士屋ホテル創業当時の貴重な資料が並び、明治期の社交界の華やかな様子を垣間見ることができます。花御殿の地下には、ブライダルサロンやチャペルのほか、屋内プールやジムなどの施設も併設されており、ミュージアムは屋内プールを望む通路の奥にありました。館内は複雑な構造で、フロアガイドがなければ思わず迷子になってしまいそうです。
2020年に誕生した「ホテル・ミュージアム」
2020年7月のリニューアルに伴い、花御殿の地下(かつての屋内プール跡)に誕生した「ホテル・ミュージアム」。ホテルの膨大なアーカイブを一般公開するこの貴重な場所には、和洋折衷の建築美を裏側で支えてきた経営資料の「実録」や、実際に客室で使用されていた猫脚のバスタブや洗面台など当時のホテルライフを彩った「実用品」などが整然と並び、ホテルそのものが一つの美術館であるかのような、深い歴史を視覚的に体感できる構成になっています。
時代を俯瞰する巨大年表「軌跡」
1878年、日本初の本格的リゾートホテルとして箱根・宮ノ下で開業した富士屋ホテル。ギャラリーの壁面を埋め尽くす湾曲した巨大年表「軌跡」は、江戸末期の創業前から令和の現在に至るまで、140年余にわたる壮大な歴史を、豊富な写真とともに一望できる圧巻の展示です。
伝説の賓客が遺した足跡
皇室をはじめ、アインシュタインやヘレン・ケラー、チャップリン、ジョン・レノンといった世界の偉人たちが遺したサインやエピソードは必見です。夏目漱石のサインや、三島由紀夫が執筆に用いた便箋など、貴重な展示が数多く並びます。また、当時使用されていた法被や和傘の展示からは、日本独自の文化で海外の賓客をもてなしてきた、誇り高い伝統が感じられます。
箱根の自然を味わう癒しの「ホテル・ガーデン」
ギャラリーでホテルの歩みを辿った後は、本館1階のラウンジ横にある扉から庭園に向かいました。建物の背後に広がる斜面を活かした約5,000坪もの敷地には、四季折々の表情を見せる木々や池が配され、自然と建築が調和した心地よい空間が広がっています。
ラウンジ前に広がる池
錦鯉たちが悠々と泳ぐ池のほとりに立つと、この地で大切に守られてきた、凛とした空気感を肌で感じます。
裏側から眺める「西洋館」と「花御殿」
ラウンジ前の池から時計回りで庭園散策をスタート☆ 白い下見板張りに格子状の窓が続く西洋館は、小さな池にかかる赤い手摺が印象的。続いて一見お寺のような重厚な屋根を持つ花御殿は、裏側から見てもその圧倒的な建築美に目を奪われます。
庭園に点在する見どころ
建物の裏手には、「ホテルの守り神」と記された古井戸跡があります。関東大震災で断水が起きた際にも、この井戸は枯れることなく、ホテルや近隣の人々を救ったという尊い歴史が刻まれています。近くの階段から斜面を上っていくと、かつて精米などに使われていたという大きな水車が姿を現し、庭園の景色にどこか懐かしい風情を添えていました。
さらに散策路を進むと、緑に包まれるように佇む「幸福の鐘」と、バラの花やフレッシュなハーブが育てられている「ハーブガーデン」に辿り着きます。温室の中では、普段の料理に欠かせないローリエが瑞々しく葉を広げており、その本来の姿を初めて間近で目にしました。富士屋ホテルのガーデンは、箱根の自然を味わいながら、心がゆっくりと癒やされていく素敵な散策路。今回は20分ほどかけてゆっくりと園内を歩きました。
庭園の緑に癒やされる ティーラウンジ「オーキッド」
散策のあとは、ラウンジ「オーキッド」に立ち寄って午後のティータイムを過ごすことに。ラウンジ(クリスタル)が往年のオーシャンビューパーラーを復刻した空間であるのに対し、オーキッドは花御殿の雰囲気に合わせて設けられたラウンジ。テーブルを彩る鮮やかなガーベラと青いグラスが、クラシックな内装に瑞々しい華やかさを添え、大きな窓からは先ほど歩いたばかりの庭園を望める開放感あふれる空間です。
去り際に振り返る 和洋折衷の建築美
おしゃべりを楽しみながら、1時間半ほどの贅沢なティータイムを過ごしたあとは、名残惜しみつつホテルをあとにしました。かつて「本玄関」として使われていた唐破風屋根の玄関からテラスへ出て、白亜の西洋館と象徴的な意匠をもつ本館の建物を振り返ると、明治から続く和洋折衷の建築美に、再び圧倒。どの角度から眺めても完璧な調和を保ち、その気品に満ちた姿を、最後にしっかりと目に焼き付けました。
富士屋ホテル
神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下359
0460-82-2211
あとがき
今回の富士屋ホテル散策は、ただ建物を見学するだけにとどまらず、日本の「美」と「もてなし」の歴史を肌で感じる、豊かな時間となりました。長い歳月をかけて守り抜かれてきた建築や庭園に満ちる静謐な空気感は、忙しい日常をふと忘れさせ、心を静かに整えてくれます。
友人との何気ない会話さえも特別に彩ってくれる、そんな不思議な魔法のようなひととき。今回は計画的な訪問ではなかったものの、ギャラリーや庭園の散策、そしてティータイムまで、思いがけず優雅な大人時間を堪能することができました。
宿泊となると少し敷居の高さを感じてしまいますが、「ザ・フジヤ」や「カスケード」、「菊華荘」、「バー・ヴィクトリア」などは一般利用も可能なので、また季節を変えて、新しい景色を探しに富士屋ホテルを訪れたいと思います。

