【熊本・高森】異界へと続く森「上色見熊野座神社と高森殿の杉」を訪ねて

苔むす灯籠が導く「上色見熊野座神社」へ

九州旅行6日目は、熊本県南阿蘇に宿泊し、阿蘇から高千穂まで足を伸ばして神社巡りへ。まず訪れたのは、阿蘇の南外れ、熊本県高森町に位置する「上色見熊野座神社(かみしきみくまのざじんじゃ)」です。鳥居近くの国道265号線沿いに参拝者用の駐車場が整備されており、アクセスもスムーズ。参道の入口には、歳月を重ねた重厚な鳥居が佇んでいます。しめ縄に下がった三つの房がわずかに揺れ、その先に広がる神域へと導かれるように、石段をのぼりました。

鳥居をくぐると、全身をやわらかな苔に包まれた狛犬たちが出迎えてくれます。足元や石垣にはしっとりとした緑が幾重にも重なり、苔の合間からは瑞々しいシダが顔をのぞかせていました。

「蛍火の杜へ」の舞台

アニメ映画「蛍火の杜へ」の舞台としても知られるこの場所は、苔むした石段と森の静けさが印象的で、どこか現実離れした空気感。神社の由来書きによると、この地は古くから阿蘇の山々への信仰と深く結びつき、自然そのものを神として崇めてきた場所とあります。やがて熊野の神々が勧請され、地域の守り神として祀られるようになり、その信仰は今も静かに受け継がれているとのことです。

境内の案内によると、さらに奥へと進んだ先には巨大な岩に穴が開いた「穿戸岩(うげといわ)」がありますが、今回は時間の都合で見送りました。

天高く伸びる杉木立と苔むす石灯籠

参道には天高く真っ直ぐに伸びる杉木立が空を覆うようにそびえ、湿り気を帯びた石段の両脇には苔むす石灯籠が奥へと連なっています。

二の鳥居を越えて深まる神域

石段を上っていく途中に、二の鳥居が姿を現しました。注連縄に下がる2つの房は、この神社に祀られている「伊邪那岐命(イザナギ)」と「伊邪那美命(イザナミ)」の二柱、すなわち「夫婦」の対を象徴しているともいわれています(諸説あり)。

鳥居の上部にまで苔やシダが広がり、歳月の重なりを静かに物語っています。

杉木立に包まれた参道に、およそ100基の石灯籠が連なる幻想的な光景。

2016年の熊本地震では、灯籠の倒壊や鳥居、社殿、手水舎の損傷など、上色見熊野座神社も大きな被害を受けたそうです。その後、2021年3月に建て替えや修繕工事が完了し、倒れていた石灯籠は何事もなかったかのように積み直されています。ただ、石段のズレが完全には元に戻っていない箇所が所々に見受けられました。雨の日は足元に注意が必要です。

異世界の森に静かに溶け込む再生の「拝殿」

2021年に再建された拝殿は、静かな森の景観に自然と溶け込む落ち着いた佇まい。御祭神は、国生みの神として知られるイザナギとイザナミの二柱を主神とし、あわせて「石君大将軍(イワギミタイショウグン)」が祀られています。夫婦神であることから、縁結びや夫婦円満、家内安全などのご利益があるとされています。

参拝を終え、今度は石段を下ることに。約260段の道のりは、下りこそ油断禁物です。

物語と現実が溶け合う杜

「蛍火の杜へ」のモデルとなった杜へ実際に足を踏み入れると、画面越しに見ていたあの儚くも美しい世界が、木々の香りと共にそのまま広がっていました。物語のページをめくるように参道を進むたび、空想と現実の境界線がゆっくりと溶け合っていくような、不思議な感覚に包まれます。作品を知る人には懐かしく、知らない人にもどこか神秘的に映るこの景色は、訪れる人の心に鮮やかな記憶を残してくれるでしょう。天を衝く巨木と立ち並ぶ灯籠に見送られながら、しっとりとした静寂に包まれた杜をあとにしました。


上色見熊野座神社
熊本県阿蘇郡高森町上色見2619

セットで訪問したい「高森殿の杉」

高森町を訪れたなら、「高森殿の杉(たかもりどんのすぎ)」も合わせて立ち寄りたいスポット。場所は上色見熊野座神社から国道265号線を南へ約10分。高森町村山の交差点を過ぎて最初の細い道を左折し、600〜700mほど進むと第1・第2駐車場があります。

牧場のゲートから先は個人所有の牧場内を通らせてもらう形になっており、道中には鹿や牛の落とし物も多く、足元に注意しながら進みます。この日はあいにくの空模様でしたが、天気の良い日には高台からの開放的な景色も楽しめるようです。

ゲートからは緩やかな坂を約180mほど登ると、「高森殿の杉」に到着。緑のトンネルを抜けた瞬間、別世界のような神秘的な空間が静かに姿を現しました。

『高森殿』とは、戦国時代に高森一帯を治めていた高森城主高森伊予守惟居(たかもりいよのかみこれおり)のことです。天正14年(1586年)、薩摩島津軍との激戦の末、家老の三森兵庫能因とともにこの杉の下で自刃したことからこの名称がついています。

 杉の樹齢は推定400年~1000年と不明ですが、伊予守が自刃した場所柄を考えると当時すでに大木であったことが想像されます。元々はここが伊予守らの墓所でしたが、寛永6年(1629年)に家臣の武田氏によって含蔵禅寺に移されました。現在、杉の下にあるものは三森兵庫の供養塔です。

「高森観光推進機構」HPより引用

通常の杉とは異なる圧倒的な造形美

四方八方へとうねるように枝を広げ、独特の造形美を見せる高森殿の杉。そのすぐ隣には、対照的に空へと真っ直ぐ伸びる夫婦杉が並び立ち、同じ場所にありながらまったく異なる姿を見せています。これは、豪雪に適応し地を這うように生きる「裏杉」に近い性質の現れ方に個体差があるため、個体ごとのわずかな違いが、それぞれ異なる生命の軌跡を描き出しているようです。静まり返った森の中で、龍のように躍動するその姿と、真っ直ぐに伸びる杉の対比から、力強い生命力を感じました。

高森殿の杉
熊本県阿蘇郡高森町高森3341-1