【イギリス・ロンドン】世界最大級の「大英博物館」から現代アートの「テート・モダン」まで!無料で楽しめる美術館6選

①世界最大級のコレクションを誇る「大英博物館」

ロンドン・ブルームズベリー地区に堂々と構えるのは、1753年の創設以来、270年以上の歴史を誇る世界最大級の博物館「大英博物館(The British Museum)」。正面にそびえる壮麗なギリシャ神殿風の列柱は神殿そのもので、ファサード上部のペディメントには、学問と文明を象徴する精緻な彫刻が施され、文化と知の殿堂としての風格を漂わせています。

大英博物館は、世界中から集められた約800万点もの収蔵品を所蔵する、まさに人類の歩みを凝縮した空間。そのうち約15万点が無料で一般公開(企画展などは有料)されています。今回の持ち時間は約2時間、広大な館内には100室近い展示室があるので、古代エジプトと古代ギリシャ・ローマにターゲットを絞りました。効率よくまわるためには事前の見どころチェックは必須ですね。

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光が降り注ぐガラスドーム「グレート・コート」

エントランスを抜けて目の前に広がるのは、世界最大級の屋内広場「グレート・コート(Great Court)」。網目模様のガラスパネルで覆われたドーム型屋根から柔らかな自然光が降り注ぎ、明るく開放的な雰囲気に包まれています。中央には歴史的な「リーディング・ルーム」が堂々と佇み、空間全体が館内を効率的に巡るためのハブとして機能。さらにカフェやレストランやショップも併設され、展示の合間のひと休みにも最適な場所です。

壮大な円形図書室「リーディング・ルーム」

かつて博物館の図書室として使われていた「リーディング・ルーム(Reading Room)」は、マルクスやディケンズといった著名人も足を運んでいたという歴史ある空間。円形の壁をぐるりと囲む壮大な書棚は、思わず息をのむほどの迫力を放っています。

古代エジプト展示

古代エジプト展示では、ひときわ目を引く巨大な胸像「ラムセス2世像」をはじめ、ヒエログリフが刻まれた石碑や壁画、女神像、神殿の柱の遺構などが並び、壮大なスケールで古代文明の叡智と信仰の深さを伝えています。

世界で最も有名な石!「ロゼッタ・ストーン」

大英博物館で最も人気の高い「ロゼッタ・ストーン(Rosetta Stone)」は、1799年にナポレオン遠征中のフランス軍によってエジプトのロゼッタ(現ラシード)で発見された石碑の断片。その後、イギリス軍がフランス軍を降伏させたことでイギリスの手に渡り、1802年から大英博物館に所蔵されています。(触れることができるレプリカも館内に数カ所ある)

現在展示されているのは、黒い花崗閃緑岩に刻まれたオリジナルの石碑で、上段には古代エジプトの象形文字(ヒエログリフ)、中段には民衆文字(デモティック)、下段にはギリシャ文字で、同じ勅令が3種類の文字体系で記されています。ファラオの善政を讃える内容で、これはその後の解読の大きな手がかりとなり、人類史において極めて重要な発見とされています。

ずらりと並ぶミイラの展示コーナー

布やマスクに覆われ眠る姿がガラス越しに間近で見られ、その生々しい迫力に思わず息をのむミイラの展示コーナー。保存状態は驚くほど良好で、古代エジプト人の高度なエンバーミング技術に感嘆させられます。

また、装飾が施された木棺や繊細に巻かれたリネンなど、一体ごとに異なる形式や階級を示す要素も興味深く、死後の世界への信仰の深さがうかがえます。精緻な装飾に見入ってしまい、気づけばここでかなりの時間を費やしました。

ネバムンの墓から出土した壁画

数多くの壁画が展示されるなか、こちらは古代エジプト第18王朝時代(約紀元前1350年頃)の「ネバムンの墓(The Tomb of Nebamun)」から出土したという壁画の数々。テーベで神殿に仕えたネバムン(書記官・財務官)が、沼地で鳥を狩る場面や供物を受け取る饗宴の様子など、色鮮やかに描かれています。

数千年の時を経ても劣化していない色彩は、無機鉱物の顔料や乾式技法、乾燥した気候、そして密閉された墓室環境など、複数の要因が見事に組み合わさっていたためとされ、狩猟や音楽、舞踏といった生き生きとした情景から、当時の人々の生活や世界観へのイマジネーションが広がります。

古代ギリシャ・ローマ展示:壮麗な彫刻の数々

古代ローマの展示で注目したいのは、ローマ帝国各地で発見された精緻なモザイク作品と、初代皇帝アウグストゥスの青銅製頭像。白目には雪花石膏、瞳にはガラス象嵌が施され、何かを鋭く見据えるような眼差しが印象的です。紀元前27年に即位したアウグストゥス(オクタウィアヌス)は、長く続いた内乱を終結させ、約200年にわたる平和と繁栄の時代「パクス・ロマーナ(Pax Romana)」の礎を築いた人物として知られています。

古代ギリシャの展示では、神話と芸術が見事に融合した壮麗な彫刻や遺物が並び、なかでも圧巻なのは、アテネのパルテノン神殿から持ち出されたとされる「エルギン・マーブル(Elgin Marbles)」と、古代リュキア(現トルコ南西部)で発掘された「ネレイデ神殿(Nereid Monument)」の復元展示。神殿建築の精緻な美しさと、神々を讃える古代人の信仰心が静かに伝わってきます。

中東展示:古代バビロンを通して見る「バベルの塔」

「バベルの塔」は、ピーテル・ブリューゲルが1563年に描いた作品をもとにしたレプリカで(オリジナルはウィーンとロッテルダムの美術館に所蔵)、その塔の形状は、古代メソポタミアのジッグラト(聖塔)やローマ建築、さらにイラク・サーマッラーのマルウィヤ・ミナレットなどを参考にしたと考えられています。

螺旋状にそびえる塔は、人間が天に届く塔を築こうとした傲慢さに対する罰として、神が人々の言葉を混乱させ、世界に散らしたという旧約聖書『創世記』の物語に由来します。展示では、この「バベルの塔」の絵画とともにバビロン出土の遺物が紹介されており、聖書に登場する象徴的な物語を歴史的・考古学的な視点から理解できるよう構成されています。案内によれば、出土した粘土板にはネブカドネザル2世(紀元前605〜562年)の宗教的献身や都市建設の功績が刻まれているとのこと。神話と歴史が交錯するバビロンの世界観が印象的な、非常に興味深い展示でした。

鑑賞の最後はイースター島の「モアイ像」

鑑賞の最後は、北側の出入口近くに展示されているモアイ像へ。イースター島から19世紀にイギリスへ運ばれた「ホア・ハカナナイア(Hoa Hakananai‘a/失われた(または盗まれた)友の意)」は、小ぶりながらモアイ像の中でも特に保存状態が良いとされる高さ約2.4m、重さ約4.2tの石像で、背中には鳥人信仰(タンガタ・マヌ)に関わる精巧なレリーフが刻まれています。

大英博物館は、植民地時代を含む歴史的経緯のなかで収集された膨大な海外の文化財を所蔵しており、その中には取得の合法性が疑問視されている品も含まれているため「略奪品博物館」と揶揄されることもあります。現在も複数の国が文化財の返還を求めており、ギリシャのエルギン・マーブルやエジプトのロゼッタ・ストーン、さらにイースター島のモアイ像などがその代表的な例として挙げられます。

文化財返還の動きが広がるなかでも、問題は非常に複雑で実現には多くの困難が伴うようですが、もしこうした象徴的な展示品が返還されることになれば、大英博物館にとっては大打撃になるはず…。そうした背景を踏まえると、今現在、世界の貴重な美術品を一堂に鑑賞できるのは、大変貴重でありがたい体験なのだなぁと、つくづく感じながら大英博物館をあとにしました。

館内各所には、次回の展示として広重の浮世絵が大きく紹介されており、会期中であればぜひ見てみたかったです。


The British Museum
Great Russell St, London WC1B 3DG

②テムズ川沿いの名建築!「サマセット・ハウス」

「サマセット・ハウス(Somerset House)」は、ロンドン中心部のストランド沿いにあり、最寄駅は徒歩5分ほどの地下鉄「テンプル駅(Temple Station)」。コベント・ガーデン駅やチャリング・クロス駅からも徒歩圏内です。

正門前には、壮麗な建物を背景にジョージ3世の騎馬像が立ち、訪れる人々を迎えてくれます。サマセット・ハウスの起源は16世紀半ば、サマセット公エドワード・シーモアが宮殿として建設したことに始まります。彼の死後は王室の所有となり、エリザベス1世が即位前に暮らしたほか、16〜17世紀にかけて王妃や王女の邸宅としても使用されました。

18世紀には財務・税務・海軍といった国家機関の庁舎として利用され、19世紀には戸籍本署も置かれるなど近代国家の拠点として発展。1989年に「コートルード・ギャラリー(The Courtauld Gallery)」が移転して以降は一般公開が進み、現在は展示やイベントが行われる芸術文化の発信地となっています。

南棟のシーメンズ・ホールとリバーテラス

まずは噴水広場をまっすぐ進み、南棟に位置するシーメンズ・ホール(Seamen’s Hall)へ。ホールを抜けるとテムズ川を望むリバーテラスが広がり、テラス席でゆったりと寛ぐことができます。今回訪問したのはいずれも無料エリアですが、有料で館内の一部を見学できる「ガイドツアー」などもあります。

螺旋階段フェチ必見!優雅に伸びゆく「ネルソン階段」

今回のお目当ては、南棟にある美しい螺旋階段。西側の廊下を進むとネルソン階段が、東側の廊下を進むとスタンプ階段があります。

まず最初に向かったのは南西の角、ネイビーボードルームに隣接する「ネルソン階段(Nelson Stair)」。青と白を基調とした華やかなデザインと、そのユニークな造形美に思わず見入ってしまいます。

DNAを思わせる流麗なフォルムには強く惹きつけられる美しさがあり、上方へと螺旋状に伸びていく姿は、希望や成長の象徴のよう。眺めているだけでポジティブなエネルギーを与えてくれます。

地味だけどユニークな「スタンプ階段」

こちらの四角い螺旋階段は、かつて建物が印紙局として使われていたことに由来する「スタンプ階段(Stamp Stairs)」。ネルソン階段に比べると控えめな存在で、南棟東側に位置します。

やや無骨なオフィス風のデザインゆえに一見すると地味ですが、下から見上げるとあら不思議、方向感覚が揺さぶられ、まるでトリックアートを体験しているかのような感覚が楽しめます。

サマセット・ハウスには見どころが数多くありますが、中でも特におすすめしたいのがこれらの螺旋階段です。優美な曲線を描きながら上へと続く建築美と機能美が融合したその造形…。静かに佇んでいるだけで、時間の流れさえも緩やかに感じさせるような空間です。


Somerset House
Strand, London WC2R 1LA

③気軽に立ち寄れる美術の殿堂「王立芸術院」

王立芸術院(Royal Academy of Arts)は、美術の普及と教育を目的に展覧会開催や芸術家支援を行う独立運営の美術団体として1768年に設立された美術館。毎年夏の「サマー・エキシビション(Summer Exhibition)」は、世界最古の公募展として特に有名です。場所はロンドンのウェストエンド・ピカデリー通り沿いで、かつて貴族の邸宅だったバリントンハウスを拠点としています。

有名な展覧会(サマー・エキシビションや特別展など)には入場料が必要ですが、メインコレクションや展示室の一部は一般公開されているので、サクッと立ち寄ってみました。無料展示と歴史的な建築を気軽に堪能できます。


Royal Academy of Arts
Burlington House, Piccadilly, London W1J 0BD

④「テート・モダン」で心に響くアート時間

ロンドン・テムズ川の南岸、バンクサイド地区にある「テート・モダン(Tate Modern)」は、2000年に開館した国立現代美術館。もともとは火力発電所として使われていた建物を大規模に改装したもので、折り紙を折ったような凹凸のある外観が印象的です。

建物の中央を貫く巨大なタービンホールを挟み、多様な現代アートを展示する「ブラバトニク棟」と、20世紀の近代・現代作品を中心に構成された「ナタリーベル棟」とに分かれており、企画展以外の展示は無料で観覧できます。


Tate Modern
Bankside, London SE1 9TG

▼「テート・モダン」についてのブログ記事は下記リンクより御覧ください☆

【イギリス・ロンドン】心に響くアート時間!バンクサイド地区の無料で楽しめる美術館「テート・モダン」

⑤世界の名画を堪能!「ナショナル・ギャラリー」

英国を代表する美術館のひとつ「ナショナル・ギャラリー(The National Gallery)」は、ロンドン中心部のトラファルガー広場に面して建つ国立美術館。1824年に設立され、13世紀から20世紀初頭までの西洋絵画を中心に、レオナルド、マネ、ゴッホ、モネ、ルノワール、フェルメール、ターナーなど名だたる画家の傑作が無料で鑑賞できます。


The National Gallery
Trafalgar Square, London WC2N 5DN

▼「NG」についてのブログ記事は下記リンクより御覧ください☆

【イギリス・ロンドン】世界の名画を堪能!西洋美術の傑作に出会える「ナショナル・ギャラリー」

⑥英国文化の宝庫!「ナショナル・ポートレート・ギャラリー」

ナショナル・ギャラリーに隣接する「ナショナル・ポートレート・ギャラリー(National Portrait Gallery)」は、英国の歴史や文化に影響を与えた人物たちの肖像画・写真・彫刻を展示する美術館。創設は1856年で、1896年に現在の建物が開館し、王族、政治家、作家、音楽家、科学者、そして現代の著名人に至るまで、幅広い形態のユニークな作品の数々に触れることができます。

ここでは新たな自己発見がありました。これまで古い時代の絵画は、細部まで写実的に描かれていることに感心しつつも、どこか遠い存在で、単なる過去の肖像画として平面的にしか捉えられていなかったのですが、英国の歴史や人物についての背景をより深く知った上で作品を見ると、その時代を語り始めるかのような生き生きとした立体感が生まれてくる感覚…人物の眼差しや衣装の意味、画面に込められた権力や緊張感etc…と、そのすべてが物語を持ちはじめ、単なる絵画鑑賞からイマジネーションが広がる3D映像を見ているかのような、絵の見え方が一変するという不思議な体験でした。また、テューダー期の歴史は、日本の戦国時代とほぼ同時期にあたり、2つの国の動乱と人間模様を重ねながらの鑑賞するも面白いと思います。

※写真は左から「メアリー1世」「エリザベス1世」「エドワード6世」

National Portrait Gallery
St. Martin’s Pl, London WC2H 0HE

▼「NGP」についてのブログ記事は下記リンクより御覧ください☆

【イギリス・ロンドン】英国文化の宝庫!歴史の主役に出会える「ナショナル・ポートレート・ギャラリー」

あとがき

ロンドンには、世界中の芸術ファンを魅了する名だたる美術館・博物館が数多く存在しますが、今回はその中でも無料で鑑賞できる美術館に的を絞って巡ってみました。

「大英博物館」は、圧倒的なスケールと世界的なコレクションを誇る一番の必見スポット。テムズ川沿いに佇む「サマセット・ハウス」では、歴史ある建築とアートの融合、特に螺旋階段は見逃せません。街歩きの途中にふらりと立ち寄れる「王立芸術院」は、気軽に本格的なアートに触れられる貴重な場所。「テート・モダン」では、現代アートの最前線に触れられ、「ナショナル・ギャラリー」では世界の名画に囲まれた贅沢な時間を過ごせます。そして「ナショナル・ポートレート・ギャラリー」では、英国の歴史と人物像を深く知ることができ、文化的な視野が一層広がることでしょう。

今回訪問できなかった場所の中では、ウィリアム・モリス・ギャラリーも心惹かれるスポットのひとつです。また、アート以外にも、サイエンス・ミュージアムや自然史博物館、ヴィクトリア&アルバート博物館など、ロンドンには科学や歴史といった分野の無料施設も多くあります。時間の許す限り、ぜひ巡ってみてはいかがでしょうか。