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時を旅する「港区立郷土歴史館」へGO!
蝉の鳴き声が響き渡る2024年の夏、1年ぶりに「港区立郷土歴史館」を訪れました。場所は、東京メトロ南北線・都営三田線「白金台駅(2番出口)」から徒歩約1分とアクセスも良好です。専用駐車場はないため、車の場合は近隣のコインパーキングを利用します。
壮観な佇まいのファサード「旧国立公衆衛生院」
日本の公衆衛生の向上と改善を目的に、1938(昭和13)年に建てられた研究施設「国立公衆衛生院」。正面に立つと、その堂々とした佇まいと端正な美しさに思わず目を奪われます。正面に連なるアーチと、表面に細かな溝が刻まれたスクラッチタイルに覆われたゴシック調の外観が印象的なこの建物は、向かいに建つ東京大学医科学研究所と対をなす存在。設計を手がけた内田祥三氏の名にちなみ、「内田ゴシック」と呼ばれる壮観な建築として知られています。
「国立公衆衛生院」は、国立保健医療科学院の移転に伴い、2002年以降は長らく閉鎖されていましたが、歴史的価値の高い建造物として評価され、2016(平成28)年から保存・改修工事を実施。2018(平成30)年に「ゆかしの杜」として新たに生まれ変わり、建物は2019(令和元)年に港区指定有形文化財に指定されました。
「ゆかしの杜」案内マップ
「港区立郷土歴史館」は、旧公衆衛生院の歴史的建造物を活用した複合施設「ゆかしの杜」の2〜4階に位置しています。館内では、港区の原始・古代から近現代に至るまでの歴史を、実物資料や模型、映像などを通して分かりやすく紹介。常設展示室は撮影不可ですが、廊下やホール、保存空間など建物見学エリアは自由に撮影できるため、歴史的建築の魅力をじっくり楽しみながら巡ることができます。
2階 〜港区の歴史や文化に触れる空間〜
2階には、港区に関連した書籍やオリジナルグッズを扱う「ミュージアムショップ」をはじめ、港区の歴史のあらましや施設の概要を映像や資料で紹介する「ガイダンスルーム」を併設。また、展示や講座、イベントなどを通して地域とのつながりを感じられる「コミュニケーションルーム」と、有料の「特別展示室」も設けられています。
2層吹き抜けの華やかな「中央ホール」
まずは中央エントランスの階段を上り、2階の中央ホールへ。ここは2層(2-3階)吹き抜けの開放的な空間で、レトロな意匠が美しい大理石の床、漆喰のレリーフが施された天井、左右に伸びる優雅な階段が目を引きます。かつて研究施設の中枢を担った場所ならではの格式と重厚感が漂い、その堂々とした佇まいには、惚れ惚れします。
港区ゆかりの書籍とオリジナルグッズの「ミュージアムショップ」
ミュージアムショップでは、港区の歴史や文化に関連した書籍をはじめ、ここでしか手に入らないオリジナルグッズなどを取りそろえています。展示鑑賞の余韻を楽しみながら、記念やお土産選びにも立ち寄りたい空間です。
旧図書閲覧室の「コミュニケーションルーム」
2階南翼の奥にある「コミュニケーションルーム」では、貴重な遺跡出土品や古地図の展示に加え、実際に手で触れることのできる巨大なクジラの骨格標本、昭和の暮らしを思わせるレトロな家電コーナーなど、多彩な展示が楽しめます。
なかでもひときわ目を引くのが、空間をやさしく彩る華やかなステンドグラス。光が差し込むと色とりどりの模様が室内に広がり、目を楽しませてくれます。
特別展・企画展を開催する「特別展示室」
3・4階の「常設展示室(有料)」は撮影禁止となっていますが、「特別展示室(有料)」では、開催される特別展・企画展によっては一部写真撮影が可能なものもあります。下の写真は、2024年夏に開催された企画展「発見!探検!江戸のまち ~江戸時代の地図で港区めぐり~」で、浮世絵や大名屋敷から出土した生活道具、江戸時代の港区の様子がわかる切絵図などの展示資料を撮影したものです。
3階 〜研究施設の記憶を宿す空間〜
3階には、2つのテーマ(海とひとのダイナミズム・都市と文化のひろがり)で構成された「常設展示室(有料)」のほか、当時の用途を今に伝える「旧院長室・旧次長室」、「休憩室」、旧書庫を活用した「図書室」があります。廊下や窓まわりの細部には、昭和初期のモダン建築ならではの美意識が息づき、建物が歩んできた時間と研究施設としての記憶が、静かに感じられます。
エレガントな装いの3階「中央ホール」
「旧院長室・旧次長室」と「休憩室」
3階中央ホールの正面に位置する「旧院長室・旧次長室」は、当時としては最新素材だったというベニア材をはじめ、木材をふんだんに取り入れた温もりのある空間です。なかでも、院長室に残る寄木細工の床は必見で、細部にまでこだわりが感じられます。
すぐ隣の部屋は、簡単なガイダンスパネルや展示物が配置された「休憩室(飲み物のみ可)」。展示の合間にひと息つきながら、建物や歴史への理解を深められるスペースです。
旧書庫の「図書館」
旧書庫を活用した「図書室」は、かつての研究施設の面影を残す落ち着いた空間。郷土史や港区に関する資料を中心に、歴史や文化を深く知るための書籍がそろっており、展示鑑賞の合間に腰を落ち着けて、静かな知的探訪を楽しめる場所となっています。
4階 〜建築と歴史を間近に感じる空間〜
4階には、旧国立公衆衛生院時代の面影を色濃く残す建物見学スポットの中でも、ひときわ見応えのある「旧講堂」をはじめ、「旧講義室」や「講座室」などの保存空間が広がっています。あわせて、「ひとの移動とくらし」をテーマとした「常設展示室(有料)」や、「休憩室」「ギャラリー」なども併設されています。
4−5階吹き抜けのシンプルな「中央ホール」
4階の中央ホールには、豪華な2階の中央ホールとは趣の異なる、シンプルなデザインの吹き抜け空間が広がっています。訪れた際には、夏休みの時期に合わせて飾られたバイオマスコップ製のコップ風鈴が、爽やかな装いで静かに揺れていました。
静かに佇む「旧講堂」
4階中央ホールから講座室が並ぶ廊下を抜けた南翼の奥には、3〜4階にまたがる二層構造の階段状空間「旧講堂」が静かに佇んでいます。
照明器具をはじめ、壁や床、木製の机や椅子に至るまで、当時の意匠を今に伝える貴重な空間が広がり、340席を誇る長机が整然と並ぶ光景からは、昭和初期の公共建築ならではの威厳と品格が感じられます。
階段を下りて、教壇側から見渡す光景もまた整然とした美しさに満ちています。建築の威厳と積み重ねられてきた歴史が重なり合う特別な空間に身を置くことで、かつてこの場で交わされた知の営みや時代の空気を、より深く体感できるのが旧講堂の魅力です。
作り付けの椅子は、クッション部分を除いて当時のままの姿が保たれているそうで、黒板の左右には彫刻家・新海竹蔵による羊と葦鷺の丸いレリーフ、中央には創建当時の外装をそのまま残した時計(内部機構は現在の電波時計)が据えられています。こうした細部の意匠もまた、この空間が歩んできた歴史を静かに物語っています。
階段空間に見る細部の意匠美
館内にはエレベーターもありますが、あえて階段をゆっくりと下りながら、重厚な壁の質感や造形、照明器具の佇まいなど、細部に目を向けてみると、建物の歴史をより身近に感じることができます。
1階旧食堂の「ベジタブルカフェ」
ひと通り見学スポットを巡ったあとは、かつて旧食堂があった1階の「ベジタブルライフカフェ(VEGETABLE LIFE CAFE by HAPPO-EN)」で朝食をいただきました。店内の柱や壁面には、池田泰山が設立した泰山製陶所による泰山タイルがあしらわれ、木のぬくもりに包まれた心地よいダイニング空間です。
いつの間にかセルフレジが導入されており、オーダーは端末機で発券するスタイルに。朝食の時間帯には、栄養バランスに配慮されたフレッシュ&ヘルシーなベジタブルセットが注文でき、自家製ドレッシングがかかった新鮮なサラダや、野菜がたっぷり入ったスープは、どちらも滋味深い美味しさです。11時からは、野菜・肉・魚からメインを選べるプレートセットなどのメニューも登場。館内散策の合間のティータイムやランチにも利用しやすいカフェです。
帰りは南側の「山小屋」と呼ばれるポーチから建物をあとにしました。ここから細い通路を抜けて裏手に回ると、南翼の建物を背後から眺めることもできます。静かに佇む姿を裏側から間近に観察すると、正面とはまた違った趣や素材の質感が感じられ、建築としての完成度を改めて実感できます。
東京都港区白金台4-6-2 ゆかしの杜内
03-6450-2107
あとがき
緑豊かな白金の街並みに自然と溶け込む落ち着いた佇まいの「港区立郷土歴史館」は、見たり触れたりする体験を通して、港区の歴史・文化・自然を学べる場所。子どもはもちろん、歴史的建築の美しさに包まれながら知的好奇心を満たせる、大人のためのミュージアムでもあります。今回は近くに用があり短時間の訪問でしたが、訪れるたびに静謐な建築美に癒やされ、スタッフの方々の明るい挨拶や丁寧な対応にも毎回感心させられます。
有料エリアの常設展や特別展では、豊富な資料を通して港区の歩みをさらに深く知ることができ、「建物好き」「歴史好き」の方には特に見応えのある内容です。オーガニックカフェやミュージアムショップも併設されており、展示鑑賞の合間にひと息つきながら、港区の歴史と文化にじっくり浸る一日を過ごしてみてはいかがでしょうか。

