2024年9月中旬、東京から青森へと車を走らせ、2泊3日のロードトリップに出かけました。この記事は、その記録を記した備忘録的なまとめブログです。ロードトリップ1日目は、日本最大級の規模を誇る「館鼻岸壁…
【青森・平川】レトロな明治建築・盛美館と武学流庭園が広がる 国の名勝「盛美園」を訪ねて
目次
国指定名勝「盛美園」へGO!
2泊3日の青森ロードトリップのなかで、青森県平川市にある「盛美園(せいびえん)」を訪れました。レトロ名建築の本で、明治時代に建てられた「盛美館(せいびかん)」を見つけて以来、青森を訪れる機会があればぜひ足を運びたいと思っていた場所です。
盛美園は、津軽地方の大地主・豪農であった清藤(せいとう)家の屋敷として造られた庭園。かつて清藤家の屋敷で、門の見張りや庭の管理などを担っていた茅葺き屋根の素朴な建物が、現在は盛美園の受付窓口として使われています。
内部にはお土産処と休憩処もあり、想像以上にゆったりとした広さ。ジブリ作品「借りぐらしのアリエッティ」に登場する屋敷の参考イメージになったということで、ジブリ作品のポスターや関連資料なども数多く展示されており、盛美館のドームがポニョの頭にのったイラスト入りの宮崎駿監督のサインまでありました。

門をくぐって「盛美園」へ
門前に立つ大きな木から、コツコツとキツツキが幹をつつく音が響き、静かな庭園に心地よいリズムを刻んでいました。観光地でありながら、どこか里山のような穏やかな空気に包まれ、その音に耳を澄ませながら盛美園の門へと足を進めます。
特別展示施設のひとつ「御宝殿」の見学については、受付時に案内していただけます。集合時間まで少し余裕があったため、まずは盛美館と庭園を見学することにしました。
※御宝殿の見学は、盛美館裏手にある御宝殿入口前に集合。金箔や蒔絵で彩られた豪華絢爛な清藤家の位牌堂を約3分間鑑賞できます。内部は撮影禁止で、係員立ち合いのもとでの見学となります。

「盛美館」の凛とした和の世界
1階が和風、2階が洋風の「盛美館(せいびかん)」は、庭園になじむ洋館を望んだ地元の地主・清藤盛美(せいとうもりよし)によって建てられた和洋折衷の館。一歩足を踏み入れると、そこには落ち着いた和の空間が広がります。
畳敷きの客間は端正なつくりで、室内の一角には囲炉裏が設けられ、火を囲んで客人をもてなしたであろう情景が自然と目に浮かびます。障子越しにやわらかな光が差し込み、正面には手入れの行き届いた庭園の緑。室内と庭とがひと続きのように感じられ、静かで穏やかな時間が流れています。
時を重ねた艶をまとった階段を上れば、華やかな洋風の2階が現れるのでしょうが、残念ながら一般公開されているのは1階のみです。(2階も見学できるガイドツアーが実施されることもあるようです。)

四季折々の庭園を鑑賞するために設けられた客間は、繊細な意匠が施された欄間や、格子状に木組みされた天井、障子戸に丸いガラスをはめ込んだ雪見窓など、和の美を尽くした空間。奥の窓には蜘蛛の巣模様の障子桟があしらわれ、細部にまで遊び心と美意識が息づく、格式を備えながらもどこか軽やかさを感じさせる書院造りの端正な佇まいが印象的です。

庭とつながる和の座と空へひらく洋の窓
庭園に面して広がる縁側は、ゆったりとした奥行きを備え、座して四季の移ろいを眺めるための特等席のような空間。軒の深い造りが外光をやわらかく取り込み、室内と庭とを緩やかにつないでいます。1階の屋根から突き出す八角形の展望室も、五方向に配された窓から庭園を一望できる造りで、和の空間の上に洋の意匠が重なる象徴的な存在です。
縁側を回り込んだ北東角の張り出し部分は、松葉模様の障子窓が施された厠(トイレ)。手前には手水として用いられた青銅製の器が据えられ、近づいて見ると中華風のデザインが施されています。とりわけ取っ手部分の装飾はどこか異国的で、迫力を感じさせる意匠です。

縁側からのぞむ庭園
縁側から庭園を望むと、まず目に入るのはV字形に打たれた飛び石。その先に、長く横たわる礼拝石が静かに構えています。さらに視線を奥へと運べば、白砂を水に見立てた枯池と、実際に水をたたえる池泉が重なり合い、庭に奥行きを生み出しています。
背景には、鬱蒼とした緑に包まれた「真」の築山。岩木山を象徴するともいわれるその高まりが庭全体を引き締め、手前の枯山水的な構成と対比をなしています。礼拝石や守護石、配された景石がそれぞれ意味を持ちながら配置され、神仏習合の世界観を凝縮したような構図です。

庭園から望む和洋のコントラスト
洋風の2階は見ることができませんでしたが、庭園側から建物を眺めると、パッと見た印象はほとんど洋館です。まずは銅板で葺かれた鮮やかなペパーミントグリーンの屋根、そしてドーム屋根をのせた展望室が視界に飛び込んできて、ようやく視線を下へ移すと、1階が落ち着いた和の意匠で構成されていることを認識して初めてこの建物が和洋折衷であることを実感するといった感じです。庭園になじむ洋館を望んだ清藤氏の意向が、見事なバランスで形になっていることがわかります。

建物全体の印象としては、和の1階よりも2階の洋風部分のほうが大きく感じられます。

日本を代表する武学流式庭園
庭園を反時計回りに巡ってみました。中心には大きな泉池が広がり、水面は鏡のように澄んで、凛とした佇まいの盛美館を映し出しています。この庭は、津軽に伝わる独特の作庭法「武学流」によって築かれた池泉枯山水回遊式庭園。1902年(明治35年)から約9年の歳月をかけ、農閑期の農民雇用対策の一環として造られたといいます。津軽の田園風景と遠景の山々を借景に取り込みながら構成されたその景観は、雄大さと繊細さをあわせ持ち、現在は国の名勝にも指定されています。

枯山水の和と優美な洋館の調和
白砂の枯池がゆるやかな曲線を描き、その向こうに静かに佇む盛美館。水を使わずに景色を表す枯山水の「和」と、優美な意匠をまとった館の「洋」とが違和感なく共存するこの庭と館の調和は、他の日本庭園には見られない、盛美園ならではの世界観なのだと思います。
「借りぐらしのアリエッティ」のモチーフになったというこの風景を眺めていると、目の前に見える縁側の下の隙間がアリエッティたちの身を潜めている場所のようにも見えてくるし、主人公の少年が静かに窓辺から外を見つめるシーンの空気感までもがふと重なって、現実でありながら、どこか物語の入り口に立っているような感覚に包まれます。盛美館の素晴らしい和の意匠もさることながら、緑の中に佇む美しい洋館に出会えたことは、写真では伝えきれない、心に響く体験となりました。
国指定名勝 盛美園
青森県平川市猿賀石林1
0172-57-2020

